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大阪地方裁判所 昭和52年(わ)1481号 判決 1977年12月26日

被告法人

本店所在地

大阪市天王寺区小橋町一六番地の七

商号

新協和産業株式会社

(代表者稲葉勝之亮)

被告人

本籍

大阪府吹田市昭和町一四二三番地の一

住居

同町一五番四号

会社役員

渡邊英一

大正二年一月七日生

被告人

本籍

大阪市東成区大今里西一丁目一二番地

住居

兵庫県宝塚市仁川台一九五番地の一

会社役員

稲葉勝之亮

昭和四年三月二七日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件につき、当裁判所は検察官足達襄出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

被告法人新協和産業株式会社を罰金八〇〇万円に、被告人渡邊英一を懲役四月に、

被告人稲葉勝之亮を懲役八月および罰金三五〇万円に、それぞれ処する。

この裁判確定の日から、被告人渡邊英一に対し二年間その刑の執行を猶予し、被告人稲葉勝之亮に対し二年間その懲役刑の執行を猶予する。

被告人稲葉勝之亮においてその罰金を完納することができないときは、金二万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

第一、 被告法人新協和産業株式会社は大阪市天王寺区小橋町一六番地の七に本店を置き家庭用金物販売業を営むもの、被告人渡邊英一は同社の代表取締役として同社の業務全般を統括していたもの、被告人稲葉勝之亮は同社の筆頭株主で同社の顧問格として事実上その運営に関与していたもの(昭和四九年一一月一日以降同会社代表取締役)であるが、被告人渡邊英一及び被告人稲葉勝之亮の両名は共謀のうえ、同社の業務に関し法人税を免れようと企て、同社の昭和四八年三月一日から昭和四九年二月二八日までの事業年度において、その所得金額が二一六、三一三、〇五七円で、これに対する法人税額が七六、三九二、四〇〇円であるのにかかわらず、架空仕入及び架空経費を計上するなどの行為により、右所得の一部を秘匿したうえ、昭和四九年四月二六日、大阪市天王寺区堂ケ芝町一九四番地所在天王寺税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が一三一、三七三、六一六円で、これに対する法人税額が四五、一八二、〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により法人税三一、二一〇、四〇〇円を免れ

第二、 被告人稲葉勝之亮は、右新協和産業株式会社内に本店を置き家庭用金物の卸売業を営んでいた株式会社新和製作所の代表取締役或いは取締役会長としてその業務全般を統括していたものであるが、同社の取締役持田豊と共謀のうえ、同社の業務に関し法人税を免れようと企て、同社の昭和四八年四月一日から昭和四九年三月三一日までの事業年度において、その所得金額が五四、二二五、一四七円で、これに対する法人税額が一九、五一二、四〇〇円であるのにかかわらず、架空仕入及び架空経費を計上するなどの行為により、右所得の一部を秘匿したうえ、昭和四九年五月三一日、右天王寺税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が一四、〇八二、七四五円で、これに対する法人税額が四、七六八、八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により法人税一四、七四三、六〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示第一事実につき

一、 被告法人代表者兼被告人稲葉勝之亮、被告人渡邊英一の当公判廷における各供述、検察官に対する各供述調書、大蔵事務官に対する各質問てん末書

一、 豊島昇、小野仁三郎、持田豊、中津昇治の検察官に対する各供述調書、大蔵事務官に対する各質問てん末書

一、 小西敏郎、森岡五十七の検察官に対する各供述調書

一、 井上伸、中西由郎作成の各確認書

一、 国税査察官作成の各調査報告書(昭和五〇年六月二六日付、同年七月一二日付、一五日付)

一、 天王寺税務署長作成の各証明書(新協和産業株式会社の法人税確定申告書、青色申告承認取消についてのもの)

一、 新協和産業株式会社の登記簿謄本、定款写

一、 大蔵事務官作成の脱税額計算書(新協和産業株式会社についてのもの)

一、 押収してある無題ノート一冊、メモ一綴、納品書控三綴、請求書納品書綴二綴、第一七期経費領収書一八綴、第一七期販売費一般管理費元帳二綴、固定資産台帳四綴、第一七期預り保証金損益勘定一綴(昭和五二年押第一〇〇六号の1ないし8)

判示第二事実につき

被告人稲葉勝之亮の当公判廷における供述のほか、第二回公判調書中の検察官請求証拠等関係カードに記載の番号4681012ないし242628ないし3234ないし4346ないし495153ないし5863ないし7178ないし87と同一であるからこれを引用する。

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、「被告法人新協和産業株式会社は判示第一の事業年度の確定申告ないしは納付期の当時においては価格変動準備金を損金に算入しうる青色申告の承認を受けた法人であったものであり、右承認の取消はその後に至ってはじめてなされたにすぎないから、当該事業年度の所得金額を算定するにあたっては価格変動準備金二一、五〇〇、〇〇〇円を損金に算入すべきである。この損金算入を否認するのは罪刑法定主義ないしは刑罰不遡及の原則に抵触する」旨主張しているのであるが、青色申告の承認を受けた法人の代表者等がある事業年度において法人税を免れるため逋脱行為をしその後その事業年度に遡ってその承認を取消された場合におけるその事業年度の逋脱税額は、青色申告の承認がないものとして計算した法人税額から申告にかかる法人税額を差引いた額であることは、昭和四九年九月二〇日第二小法廷、同年一〇月二二日第三小法廷、昭和五〇年二月二〇日第一小法廷各最高裁判決が明確に判示しており、この点に関する最高裁の判断はすでに確立しているといえるところ、前掲各証によると、本件は、被告法人の代表者ないしは顧問格であった被告人渡邊英一、同稲葉勝之亮の両名が共謀のうえ、その法人税の逋脱を企て、昭和四八年三月一日から昭和四九年二月二八日までの事業年度において、もしその事実が発覚するにおいては右事業年度に遡って青色申告の承認を取消され価格変動準備金の損金算入などの特典も享受しえなくなる事態のありうべきことを未必的に認識しながら、あえて判示のような確定申告に及びその結果、実際に昭和五〇年一〇月二一日付で右事業年度に遡って青色申告の承認を取消されるに至っているというものであり、このような被告法人の場合にあっては、すでにその確定申告の当時から価格変動準備金の損金算入などの特典はこれを享受しえない関係にあったのであり、その損金算入を否認したからといって、一旦(価格変動準備金を損金に算入して)適法に確定していた逋脱罪の成立範囲(所得金額、税額)をその後に至って覆しこれを加重的に認定しなおしたというような関係にはない(被告人らにおいて価格変動準備金を不当にも損金に算入して所得金額や税額をその分だけ過少扱いしてきた一方的な取扱いを否定し、これを本来あるべき正当な取扱いにもどしたにすぎない)というべきであり、これをもって罪刑法定主義や刑罰不遡及の原則に抵触するという非難は当たらない。弁護人の主張は採用しえない。

(法令の適用)

被告法人新協和産業株式会社につき

一、 判示第一の所為

法人税法一六四条一項、一五九条一項二項

被告人渡邊英一につき

一、 判示第一の所為

刑法六〇条、法人税法一五九条一項(所定刑中懲役刑選択)

一、 執行猶予

刑法二五条一項

被告人稲葉勝之亮につき

一、 判示第一の所為

刑法六五条一項、六〇条、法人税法一五九条一項(所定の懲役と罰金を併科)

一、 判示第二の所為

刑法六〇条、法人税法一五九条一項(所定の懲役と罰金を併科)

一、 併合罪加重

刑法四五条前段、懲役刑につき同法四七条本文、一〇条(重い判示第一の罪の懲役刑に法定の加重)、罰金刑につき同法四八条二項

一、 懲役刑の執行猶予

同法二五条一項

一、 労役場留置

同法一八条

よって主文のとおり判決する。

(裁判官 栗原宏武)

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